クソババア上等! 里親さんたち地域が留学生を支える集落|取材日記

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シマ育コミュニティ編集長で、運営団体のNPOリトケイ代表の鯨本です。

島と親子のより良い出会いをつくるべく、2023年度にスタートした「シマ育プロジェクト」では、私もあちこちの島へ調査・取材に出かけてきました。私が訪れたことのある島は全有人離島の半数、200島ほど。時々、5歳と8歳になる子どもたちも一緒に、島々へおじゃましてきました。

文・鯨本あつこ

「シマ育」を構想したきっかけには、リトケイが2020年に制作した『季刊ritokei』「子どもは島で育てたい」特集により、専門家のインタビューで「島には人間本来の子育てがある」と教えていただき、深く納得したことがあります。

社会をみまわすと、孤独な子育てに悩む親御さんの問題や、学校に馴染めない子どもたちの問題をはじめ、ネグレクトや虐待など耳をふさぎたくなるような問題があり、少子化が止まる兆しもありません。

一方、子どもたちを連れてたずねる島々では、たとえ初対面でも、血はつながっていなくても、子どもという存在によろこび、尊び、一緒になってかわいがってくれる大人がいました。

ある島では島のお父さんに農業用トラクターに乗せてもらいたのしんでいた子どもたち

もちろん、島も多様なのですべてとはいいません。しかし、東京や地方都市、本土の田舎町でも子どもたちと過ごしてきた私の肌感覚では、島々では圧倒的に「子は宝」という感覚が強く、ひとりの親として常に「いいなぁ」と感じてきました。

そこではじまった「シマ育プロジェクト」は、個人的にも「いいなぁ」と思ってきた島の子育て環境と、そうした環境を求める親子をつなぐもの。1組でも多くの親子に、シマ育に出会ってもらいたいと願いながら、プロジェクトを進めています。

シマ育とは?

そんな我々は12月、鹿児島県の甑島の方から「離島留学の追加募集を行っている」「留学生にきて欲しい」というメッセージをいただきました。

「離島留学」は1970年代に山村留学をモデルにスタートしたもので、人口減少地域の学校を存続させるために、多くの島で行われています。

離島留学とは?

島の学校で学ぼう!令和6年度「離島留学」募集情報まとめ

甑島の離島留学は歴史が長く、島にはベテランの里親さんもいらっしゃるとのこと。ただ、最近は離島留学を行う地域も増えていることもあり、留学生の募集に苦労されているとのことでした。

そこで甑島に渡り、留学生を受け入れている鹿島地区におじゃましました。

取材日が休日と重なったため我が子たちも同行。鹿島小学校で先生や島の方々にお話しを伺っている間、子どもたちは学校を見学したり、校庭で遊ぶ子どもたちと一緒に遊んだり。きままな時間を楽しんでいました。

なんでも、鹿島地区の子どもたちは休みの日は自由に校庭に集まり、遊んでいることが多いのだとか。

学校は集落の真ん中にあり、10時になると子どもたちが集まってきて、12時になると昼食のため一旦帰宅。13時になるとまた集まってきて、17時になるとそれぞれ帰宅。そんな子どもたちを、集落の大人が見守るというおおらかさに、我が子も居心地のよさを感じていたようです。

左から鹿島小学校の田之畑教頭先生、ウミネコ留学制度実施委員会の中野会長、診療所の松元先生。子どもたちを見守り支える心強い大人たち

学校での取材後、「こっぱもち(地元の郷土菓子)を焼いたからおいで」というお誘いにのり、里親をされている中野会長宅におじゃましました。

20年以上、何人預かったかは「わすれた」というほどたくさんの子どもたちを預かってきた里親のお父さん、お母さん。話を伺うと、子どもたちと格闘してきた日々をふりかえりながら、楽しそうに語ってくれました。

印象的だったのは、ある留学生から「クソババア」といわれた時のお母さんの反応。「クソババア」といわれたお母さんは、ひそかにガッツポーズ。「私にクソババアというくらい成長したんだと思ってうれしくなった」「クソババア上等」とうれしそうに語ってくれました。

「わたし、人間が大好きなんです」というお母さん。隣にいるお父さんは、魚が好きなうちの息子に「魚が好き? じゃあ毎日釣りにつれていってやる!」とにこにこ語り、我が子は目を輝かせながら「ここに通うのもいいな…」とぽつり。

島には、都市的な環境では得られない大自然があり、人々が支え合う暮らしがあり、自然と共に生きる知恵があり、「子は宝」が根付く風土があり、子どもたちはそれらに包みこまれながら育つことができるわけです。

白いお皿の左上にあるのがお芋と餅米で作られた「こっぱもち」。さばきたてのお刺身に郷土料理だという混ぜごはんもいただき、その美味しさにもだえました

甑島・鹿島地区で感じたのは、シマ育の真髄ともいえる圧倒的な人間力でした。

鹿島地区の離島留学募集は12月21日に行ったシマ育勉強会でも紹介させていただき、その後、令和6年度開始の離島留学生は定員に達したとのこと。

アーカイブ動画では「クソババア上等!」のお母さんにも登場しますので、ぜひご覧ください(令和7年度の離島留学を今から検討されるのもおすすめです)。

「シマ育勉強会」アーカイブ動画・レポートまとめ

シマ育プロジェクトの活動費は、子どもたちを取り巻く社会課題を解決することを目的とした日本財団の「子どもサポートプロジェクト」の採択事業への助成と、リトケイのサポーター会員および寄付者の皆さまからのご支援によってまかなわれています。

「シマ育」の活動を継続・拡大するためには、ご支援の拡大が必須です。よりたくさんの親子が、魅力あふれるシマ育環境に出会い、明るい未来を歩んでいけるよう、皆さまからのご支援を募集しています。

島の宝を未来につなぐ継続的な応援団(マンスリーサポーター)

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