島と都会の親子はクマノミとイソギンチャクのように|根ケ山光一先生インタビュー
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2020年発行のリトケイ特集「子どもは島で育てたい」(>>”守姉”の島。多良間島にみる「人間本来の子育て」【特集|子どもは島で育てたい】)...
「まず大事なのは『大人が必要以上に口を出さない』こと。大人には見守る力をもってほしいですね。子どもは親が近寄ってくると、親を気にして動いてしまいます。」(中能孝則先生)
自然があり、文化があり、人がいる場所で子どもが育つ「シマ育」。島の人にとっては当たり前かもしれない環境が、実は大きな可能性を秘めているのでは?保育学や教育学の研究者として知られる汐見稔幸(しおみ・としゆき)先生と、子どもたちの自然体験を支えてきた中能孝則(なかよく・たかのり)先生に聞きました。記事後編です。
>>「【対談】汐見稔幸氏×中能孝則氏(前編):不便さがある離島は、かえっておもしろい。」はこちら
※この記事は『季刊ritokei』44号(2023年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
豊かな自然があるとはいえ、近年は子どもたちが自然の中で自由に遊ぶ姿は減りつつあり、親自身が自然との関わりに不慣れな場合もある。島という利点を生かし、子どもたちが非認知的能力や暮らし力を身につけるにはどうすればよいか。
まず大事なのは「大人が必要以上に口を出さない」こと。
「大人には見守る力をもってほしいですね。子どもは親が近寄ってくると、親を気にして動いてしまいます。お父さんお母さんのことを気にせず、子どもが心の動くままに自由に動く距離があるのです」(中能先生)
ケガをしないよう大人は子どもに「危ない」と声を掛ける。その時、大怪我をするほどの危険か、そうでないのかを見極める力を身につけるのが大人の仕事なのだと中能先生。
子ども時代、海で離岸流に流された経験があったから「これ以上は危ない」という限界を学ぶことができた自身の経験もふまえ「自然のなかでの遊びは、自分の限界を知るチャンスでもある」という。汐見先生も子どもたちの能動的な動きを尊重してほしいという。
「同じ環境の中でも子どもたちは十人十色の関心を示します。その子が何に興味があり何を伸ばしていきたいのかを見て、最低限の安全の指示をしながら、それ以上はかまいすぎない。子どもを信じて、ルールやプログラムを考えすぎないことです」(汐見先生)
つくるよりも買うことが当たり前という消費生活への慣れと同様に、ルールやプログラムを与えられることに慣れた子どもたちは、何もない環境で遊びをつくることに不慣れだ。自然体験を求めて中能先生のもとへやってくる子どもたちのなかには、最初は「何をするの?」と受け身の姿勢が目立ち、保護者も「プログラムはなんですか?」と尋ねてくる人もいた。
しかし、非認知的能力や暮らし力は与えられたものではなく、自ら考え、つくり出すからこそ養われる。不便や不足を肯定してこそ得られるものなのだ。
環境に恵まれた島を、子どもたちがたくましく育つ場として十分に生かすためには、大人たちの「見守り力」がカギをにぎる。「島には都会にはない自然環境がたくさんあります。そんな豊かな環境を活かしていきたいですね」(中能先生)
島の自然や文化、地域社会の中でたくましく育つことのできる「シマ育」は島に暮らす子どもだけでなく、家族旅行や学習機会などでの体験や、離島留学制度、子育て移住など、さまざまな門戸が開かれている。
汐見先生曰く、非認知的能力を育む年齢は早ければ早い方が良いものだが、現代的な暮らしでは習得できなくなった能力を高める機会は年齢問わず貴重なものだろう。
「離島にはちょうどいい規模のコミュニティがあり、コンビニもあんまりないから自分でつくるしかない。自然と上手に関わることが都会ではほとんどできなくなってきているが、自然は心の豊かさを経験させてくれる。人生の一時期だけでも、そういう場所で過ごすことは、子どもにとって大切な財産を与えてあげることになると思います」(汐見先生)
>>「【対談】汐見稔幸氏×中能孝則氏(前編):不便さがある離島は、かえっておもしろい。」はこちら
お話を伺った方
汐見稔幸(しおみ・としゆき)
(一社)家族・保育デザイン研究所代表理事。東京大学名誉教授・白梅学園大学名誉学長・全国保育士養成協議会会長。日本保育学会理事(前会長)。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。自身も3人の子どもの育児を経験。保育者による本音の交流雑誌『エデュカーレ』編集長でもある。持続可能性をキーワードとする保育者のための学びの場「ぐうたら村」村長。NHKEテレ「すくすく子育て」など出演中。
中能孝則(なかよく・たかのり)
鹿児島県薩摩川内市生まれ。15歳まで甑島で過ごす。1974年、(公財)社会教育協会日野社会教育センターに勤務。元館長。2009年より「森のようちえん&冒険学校」を立ち上げ、企画・運営に携わる。NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟監事。
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