移住者が子どもたちの”ナナメの関係”に トカラ列島・悪石島|シマ育レポート
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シマ育コミュニティ編集部の水嶋です。 1991年から独自の離島留学制度「山海(さんかい)留学」に取り組む十島村(トカラ列島)。どんな人が、どんな思いで...
島に限らず日本の子どもたちの日常には、スマートフォンやオンラインコンテンツがあふれるようになりました。2020年から続いたコロナ過の影響も含め、日本の子どもたちがどんな状態にあるのか。子どもの問題にも詳しい精神科医の松本俊彦先生に聞きました。
※この記事は『季刊ritokei』44号(2023年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
あくまで診察室からの推測ですが、学校と家以外のたまり場がなくなっている印象です。都会では地域コミュニティが崩壊し、隣に誰が住んでいるかも分からず、親族との関わりも少なくなっています。
コロナ禍によって遊ぶ機会はさらに失われ、残された空間はスマートフォンの中だけ。孤立した子の一部は歌舞伎町の「トー横」などに流れていきます。そこには薬物や売春などの危険があるのですが、一方で子どもたちがホームレスの老人たちと会話する風景がみられる。
コミュニティに飢えていて、自分の価値を再認識できる場所を求めているようにみえます。コロナ禍では皆でテーブルを囲みごはんを食べる機会も失われましたが、これほど大切な儀式はありませんでした。
デジタルに感染リスクはありませんが、感染リスクを犯さずに信頼関係を結ぶことはできないのです。
追い詰められた人が救われる可能性があります。30年前だと引きこもりの人は永久に引きこもりでしたが、最近はオンラインゲームで友だちができ、恋人ができ、結婚できる人もいるわけです。
ゲーム依存などのトラブルもありますが、もはやスマートフォンなしの社会に戻れないのであれば、必要悪としてスマホを使い倒すことの方が、サバイバル力につながる可能性があります。
リアルな人間関係が乏しかったり不確かな子ほど、スマホにのめり込んでしまいます。コミュニケーションにおいては、リアルな場数を踏んでいないと、自分の言葉が相手をどれほど傷つけるのか分かりませんし、相手を評価する価値観も育ちません。
SNS上ではエコーチェンバー効果(※)で錯覚を起こすおそれもあり、猜疑的になったり、裏を探ったり、コミュニケーションに疲れてしまいます。
※自分と似た興味関心をもつユーザーをフォローする結果、意見をSNSで発信すると自分と似た意見が返ってくるという状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象に例えたもの
オンラインコンテンツは非常に短い時間でインパクトをもたらします。YouTube動画よりも短いTikTok動画を好むように「即時報酬」に慣れると、辛抱ができなくなってしまいます。
長く思考しながら得るよろこびや感動はインパクトが弱いのです。また、未来に受け取れる大きな金額と、すぐ目の前の少ない金額とでは、衝動的な人ほど目の前の金額を選んでしまいがちになります。
即時報酬を超えるのは簡単ではありませんが、我慢すればあとで大きなよろこびが得られるということを学ぶには、やはり教育が必要です。
子どものうちに定期的なデトックスとして、島のような空間で過ごすことは、自然なよろこびを経験する良い機会になり、人間そのものを学ぶ機会にもなるでしょう。
本来、人間とは複雑なものですが「一部」を切り取ったSNSの世界には、人間そのものを学ぶ機会はありません。リアルなコミュニケーションを体感できる世界では、人間の矛盾や奥行きを感じることができるでしょう。
子どもたちは虐待を受けるなどの不適切な環境で育つと「世の中はこうだ」「大人はみんなこうだ」と、過度な一般化を起こしてしまいます。そこで多様な大人と交流できる地域コミュニティがあると、親には否定されても自分を認めてくれる別の大人がいるという体験ができる。
「うちの親とは違うタイプの大人がいるんだ」「自分の親も完璧ではないのだ」と、健全な脱・錯覚ができるのです。
お話を伺った方
松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長。博士(医学)。精神科医。薬物依存症治療の第一人者として診療や研究に携わる。著書に『「助けて」が言えないこども編』(日本評論社)ほか
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